佐渡裕芸術監督の選曲の妙、今聴いたからこそ余計に心にしみた~兵庫芸術文化センター管弦楽団 第133回定期演奏会~

【PACファンレポート55兵庫芸術文化センター管弦楽団 第133回定期演奏会】5月14日の演奏会は、佐渡裕芸術監督が今シーズン3回目の登場。ソリストは兵庫芸術文化センター管弦楽団の第1期生(2005~2008年在籍)で、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者を務める、クラリネットのラスロ・クティ。開演前のトークで佐渡さんは、昨日61歳になったとお茶目に打ち明け、OBをソリストに迎えた喜びを語った。

そして当日のプログラムについて「演奏曲は大体3年前ぐらいに決めるので、別に僕に予知能力があるわけではないと思いますが、今日演奏する曲の作曲家たちはロシアにルーツがあります。コープランドはニューヨーク生まれですがリトアニア系ユダヤ人。バーンスタインのルーツはウクライナです。帝政ロシアからソ連時代を生きたショスタコーヴィチは、スターリンの粛正に直面し、苦悩しました」

「昨日は、このセンターの館長である斎藤元彦知事が演奏会を聞きに来てくださいました。その時に兵庫県でも受け入れているウクライナからの避難民の生活支援のための募金をご来場の皆さんにお願いしたいと言われました。普段だったらこんな時は僕自身が募金箱を持ってロビーに立つのですが、感染防止のためそれもできません。スタッフがロビーで呼び掛けていますので、ご協力をよろしくお願いします」

 

2022年5月のプログラムの表紙。この日のソリスト、ラスロ・クティは5月7日に神戸女学院小ホールでPACメンバーを率いた室内楽シリーズでクラリネット・指揮を担当したとあった

そう話してアーロン・コープランド(1900-1990)の「クラリネット協奏曲」が始まった。スウィング・ジャズの名手ベニー・グッドマンがコープランドに委嘱した曲で、グッドマンが初演した曲だそうだ。

夕暮れ時の田舎の景色を連想させる、ゆったりのどかな導入部。クラリネットの柔らかな音色を絶妙に弦が支える。第1楽章の終盤のカデンツァを、のびのびと演奏したクティ。ピアノとハープに導かれて始まる第2楽章はジャジーなリズムに彩られて楽しかった。

 

次の曲は佐渡さんの師、レナード・バーンスタイン(1918-1990)の「プレリュード、フーガとリフス」。舞台の大転換が必要なため、再びマイクを手に佐渡さんが登場。

「この曲は僕が若き日にコンクールで初めて優勝した後、ヨーロッパでの最初の演奏会で披露した思い出の曲です。ドラムセットやサックスなどジャズのビッグバンドと同じ編成で、いかにもバーンスタインらしい才気にあふれた曲です」

「ウエストサイド・ストーリー」にも通じるリズミカルでスリリングな展開。独奏クラリネットはクティ。ドラムは則竹裕之、ピアノは高木竜馬。5本のサクソフォンはエキストラのプレーヤーたち。トランペットやトロンボーンのコアメンバーたちがリズムに乗って演奏する姿は、いつもの演奏会ではあまり見ない光景だが、クラシックコンサートの守備範囲の広さを感じた。

クティのアンコール曲はピアノ付きでテンプルトン「ポケット・サイズ・ソナタ」より第1楽章。PACとの共演を心から楽しみに来日したクティの活躍がまぶしかった。

 

今夏の佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ「ラ・ボエーム」のフラッグが飾られていた

そしてオーケストラの曲はドミートリイ・ショスタコーヴィチ(1906-1975)の「交響曲第5番」。約90人の大編成で、全編のたうち回るような苦悩に満ちた重厚な音楽に挑んだ。

いつもはハツラツと見える佐渡さんの指揮姿が、この日は少し違って見えたのは作曲家の苦悩とウクライナの人々の苦悩を重ねた愁いが脳裏にあったからなのか。

 

精魂傾けた演奏の後で、オーケストラのアンコール曲は「アンダンテ・カンタービレ」。佐渡さんが「この曲はチャイコフスキーが、ウクライナを旅した姉から聞いた民謡のメロディーをモチーフにしています。ウクライナにはチャイコフスキーの記念館がありましたが、爆撃で失われたそうです」と紹介すると、嘆きのため息がホールに満ちた。

ショスタコーヴィチの苦悩と悲痛を聞いた後の祈りに満ちた調べ。一日も早い戦いの終結を祈らずにはいられない。

 

終演後のホワイエで「ウクライナ支援募金」が行われた。5月12日の公開リハーサルと3日間の定期演奏会の計4日間で総額2,559,866円が集まった。寄付金は兵庫県立芸術文化センターから兵庫県「ウクライナ緊急支援プロジェクト」に全額寄付され、県内に一時避難しているウクライナの人たちの生活支援に充てられる

コンサートマスターは田野倉雅秋。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの白井篤(NHK交響楽団第2ヴァイオリン次席)、ヴィオラの中島悦子(関西フィルハーモニー管弦楽団特別契約首席、神戸市室内管弦楽団奏者)、チェロの西谷牧人(元東京交響楽団首席)はこの日のソリスト、ラスロ・クティと同期のPACのOB、コントラバスの吉田秀(NHK交響楽団首席)、トランペットの川上鉄平(フリーランス)。

スペシャル・プレイヤーはトランペットの佐藤友紀(東京交響楽団首席)、パーカッションの安藤芳広(東京都交響楽団首席)。

PACのOB・OGはソリストとゲスト・トップ・プレイヤーの2人を含めて総勢14人。ヴァイオリン7人、ヴィオラ、チェロ、コントラバス各2人が参加した。(大田季子)

 

【お知らせ】

★シーズン最終を飾る6月10日(金)~12日(日)の第134回定期演奏会(指揮:下野竜也)で、出演を予定していたソリストのプラメナ・マンゴーヴァ(ピアノ)の居住国ブルガリアが、5月から新型コロナウイルス感染症の水際措置に係る待機措置指定国となり、来日できなくなったため、ソリストが石井楓子(ピアノ)に変更された。

当日の演奏曲は、オール・ショスタコーヴィチ・プログラムで「ピアノ協奏曲 第2番」「交響曲 第7番 レニングラード」。

★兵庫芸術文化センター管弦楽団2022-23シーズン定期演奏会定期会員券(9回通し券)の販売は、いよいよ5月31日(火)まで。

詳しくはコチラから https://www1.gcenter-hyogo.jp/news/2022/04/0405_PAC_teiki.html




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